
氷冠というのは人はもちろん微生物も生きられないような過酷な環境で、その奥底には恐竜が生きていた時代の空気も閉じ込められている。氷が溶けて鳴るパチパチという音はそういう見えない空気の化石が私たちが今呼吸する大気に弾け出てくる音だ。東京の片隅で南極の氷が溶ける音に耳を澄ませる。青い光の信号が人間が誕生する遥か昔を通過して今ここに跳ね返ってくる。
藤瀬朱里/Akari Fujise
慶應義塾大学環境情報学部(認知科学専攻)卒業
Camberwell Collage of Arts(drawing and conceptual art practice専攻)卒業
ドローイングを軸に、生活の中に偏在する様々な痕跡を刺繍など身体的な動作を用いてトレースする作品を主に制作している。トレースという通常の認知バイアスとは異なるプロセスでそれらが持つ独特な静けさを理解し引き出そうとしている。